岡山大学名誉教授で洋画家の川上一巳さん(80)が、伊那市新山小学校で児童たちの人物画を描き、プレゼントしている。川上さんが師事した中村琢二氏(1897―1988年)が晩年を過ごした思い出の地の小学校で「勉強したことをお返ししたい」と独自に計画。12日には2年生4人を描き、児童たちに人物画の描き方を優しく教えた。
琢二は晩年「午前と午後、アルプスが描ける高遠は絵かきの天国」として、春と夏の2カ月間高遠に滞在。伊那谷の移ろい行く自然を題材にした風景画を描き残している。川上さんは岡山大で美術を教え、退官後は地元の岡山県を中心に地域の子どもたちを描く活動をしている。これまでに全国の約700人の子どもたちを描いてきた。
新山小では、図工の時間に児童たちと話をしながら水彩絵の具と色鉛筆を使って手早く絵を重ねていく。一人ひとりの表情や服のしわ、影までを細かなタッチで描き進め、50分ほどで仕上げる。児童の特徴を的確にとらえた色彩豊かな人物画の下方にサインを入れて完成させる。
児童たちは野球のユニホームやかわいいワンピース、アニメキャラクターのTシャツなどお気に入りの服を着て、慣れないモデル業に挑戦。2年生の井上真由香さんは「同じ姿勢は疲れるし眠くなるけれど、完成した絵がすごくうまくて写真よりずっといい」と感激していた。
川上さんは、空いた時間には琢二と同じように伊那谷の風景を描く。出かける際は琢二のトレードマークだった赤い帽子をかぶって歩き、題材を探す。川上さんは「立派な人の絵や生き方をまねをすることで自分でものをつくり出せるからね」と笑う。
子どもたちの絵を描き続ける理由を「長年大学で研究費を使って人物画を研究してきた。年を取ってようやくお返しができる」と話す。人物画について「『絵を描く』というより『モデルと2人で絵を生む』行為。自分ではよく分からないが、誰かが描かせてくれている気がする」としみじみと振り返る。
川上さんが新山小で絵を描くのは13日まで。16日からは伊那西小を訪れる。
写真=児童たちに人物画の書き方の指導をする川上さん(左)